すべての人にアートを

仙台を拠点に活動するNPO法人アートワークショップすんぷちょの活動ブログです。

子ども達のちいさな決意、大きな一歩~アイアンキッズ・シアター体験開催報告~

福岡県北九州市、古くは八幡製鉄所で栄えた鉄鋼の町と共に生きている劇場があります。
枝光本町商店街アイアンシアター。元は銀行だった建物を劇場公演が出来るよう改修し、地元企業のバックアップのもと、近隣の商店街や町の人たちに親しまれ運営されています。

アイアンシアターは、まだ任意団体だったすんぷちょに、震災後暖かい手を差し伸べてくださいました。それがご縁で今でもアートを解した交流が続いています。その一つが毎年秋に行われる枝光まちなか芸術祭。商店街のど真ん中でダンスパフォーマンスさせて頂くなど、刺激的で暖かく、誰もが楽しめる芸術祭に毎年お声がけいただける事は大変ありがたいことです。

そしてこの夏!すんぷちょとアイアンシアターが企てたのが「アイアンキッズ・シアター体験」です。劇場で、子ども達がアートを通して交流することを目的としています。
去年、第一回目を開催した際は、日帰りのコースのみでした。夏休みとはいえ親御さんの送り迎えが負担となり、参加したくてもできない子がいるという反省がありました。そこで今回は劇場に泊まっちゃえ!ということで、合宿コースを設けたところ、大変好評でした。

劇場に合宿しながら、ダンスも照明も音響もスタッフワークまで、劇場公演に関わる全てのことをまるごと体験しようという贅沢なアート体験!3泊4日、アーティスト、スタッフ、子ども達と寝食を共にしながら過ごした濃ゆい創造の日々の報告です。


(音響の本儀さんとこどもたち)

■講師陣

今回の講師はダンスに西海石みかささん、アシスタント佐々木大喜さん、音響に本儀拓さん、照明に西邑太郎さん、そして劇場体験アイアンシアタースタッフの鄭賢一さんと高橋夏帆さんにお願いしました。

子どもを対象としたワークショップのファシリテーターとして自由な発想を引き出し、閃きを汲み取って形にし、何より安全に、という点において、準備の段階から素晴らしいパフォーマンスをして下さいました。体験という時間の価値を最大限に引き出そうと知恵を絞ってくださったみなさんに心から感謝しています。


■形の無い音や光と向き合う、ということ

さて、すんぷちょでは普段からダンスのワークショップは企画していますが、音響や照明のワークショップを子どもを対象に行う機械はあまりありません。私もどんな内容になるのかとても楽しみにしていました。

音のワークショップでは、身の回りにある音、聞こえてくる音を探すことから始まりました。
商店街に出て屋外の音を探すサウンドスケープや、劇場内にあるものを使って叩いたり、こすったり、打ち付けたりしながら、自分で音を作ってみたりします。
サウンドスケープに参加した小学3年生の女の子から「思っていたよりたくさんの音があった」と感想があったように、身の回りの音に意識を集中してみると、普段の生活では気が付かなかった音の景色が見えてきました。
 
劇場の中で探した音は、一つ一つ音を録音していきます。この録音作業、実はとっても地味で集中力が必要!録音の間は一切の雑音を立てないように、空調を止め、身動きを止め、息まで止めそうになるくらい、ただじっと音に耳を澄ます時間でした。参加した小学生は低学年の子も多く、常に動き回りたい、エネルギー有り余るお年頃。誰かが動いて床が軋む音が入る度に録り直しになります。
ペンのキャップを閉める音、椅子の淵を叩く音、紙コップを油性マジックで擦る音など、普段の生活では一瞬で通りすぎて見向きもしないような音を、壊れやすくて儚いとても大切な宝物を扱うように、子どもも大人も全員が耳を集中して記録していった時間は、とても尊いものでした。全て録り終えた後は拍手があがりました。

照明のワークショップでは、予め担当の西邑さんが劇場に仕込んだ様々な照明器具の明かりを見てみることから始まりました。バック、トップサス、フット、舞台用語で使われる照明の名前が書いてある用紙に、それぞれのあかりがどんな感じがするか、自分の言葉でメモをしていきます。
「バック、顔がくらい、かげが大きくうつりやすい」「フット、らいざっぷのしーえむみたい」など、子ども達は自分なりの言葉で、その明かりがどんな見え方がするかをメモしていきました。
次の段階ではそのメモをもとに照明プランを一人ずつ考えます。ダンスの時間にやった短いワークから一つ選んで動きに明かりをつけていきます。動きを頭の中でイメージしながら、そこにどんな明かりが当たれば効果的に面白く見えるか、頭の中で二つを組み合わせてイメージしていく作業はとってもクリエイティブかつ、エネルギーを必要とする作業でした。
 

劇場の中で作られる演劇やダンスなどの舞台公演は、消えモノと言われるように形に残るもの、触れることができるものではありません。その時間に一緒に居た人としか共有できない、いわば「時間」と「空間」を作っています。音と明かりのワークショップ通して、一緒に時間を過ごして頂く、お客さんの立場からどんな風に見えるか、聞こえるか、という視点で創作した体験は、劇場公演を作っていく本質の一つに触れられた時間だったのではないかと思います。

■自分で決めて一歩踏み出す
ダンスの時間ではたくさんのゲームやシアターワークを行いました。「からす、かずのこ、にしんのこ、おしりをねらって、かっぱのこ」など、語呂の良いわらべ歌を取り入れたワークでは子どもたちは自然と一緒に創作していくメンバー空間を把握し、関わりあう準備をしていきました。

「工場」というワークでは客席から一人ずつ舞台に上がっていって、まるで機械の部品の一部になったかのように同じ動きを繰り返していきます。自分より先にいる人の動きに連動してみたり、加わり方は自由。

でも自由ということは、加わっていく順番も決まっていないということ。
子ども達の中にははじめ加わることに躊躇して、ずっと客席で見ている子もいました。
「本番も見てる?参加しない?」講師のみかささんはそんな子ども達に声をかけます。ワークショップに来ているのだから、ちゃん加わろうよ、ということを言う大人はいません。参加することは自由、だけどそれは誰も自分が加わることを決めてはくれない、自分で決めてどちらにするか選ぶということです。

今回ダンスの時間に行ったたくさんのワークは即興で動いていくものが多くあることなどもあり、「自分で決めて一歩踏み出す」という決意が必要とされていました。

■そして本番
合宿の最終日、実際にお客さんをお招きし、4日間の集大成を披露する劇場公演をする日です。
この日のために公演の制作面を体験する「劇場をつかおう」の時間では、公演チラシを手作りし、10枚すつ印刷したものをもって商店街に掲示をお願いしに行きました。チラシを作る時間では担当した高橋さん(アイアンシアター)からチラシに必要な3つのことは何?という問いが出されました。「タイトル、日時、場所、この3つを入れてチラシを作ってみよう!」ということで、子ども達は手書きのチラシを作成。後日印刷したものをもって商店街のお店の方や買い物中のお客さんに呼びかけをしに行きました。

本番の客席は、参加した子ども達のご家族や、商店街の方々でなかなかの入り。親に会えない寂しさも少なからずあったろうと思います。久しぶりに会う兄弟やご両親に飛びつく子もいました。

客席案内や、開演前の前説も子ども達が担当し、徐々に電気が暗くなる劇場内、いよいよ開演。
作品の冒頭は、工場のワークのシーンです。一人ずつ全員がテンポ良く機械の一部となって加わっていきます。その一歩を自分で決めて、自分のタイミングで加わっていきます。ワークショップでの様子を知っているからかもしれませんが、そのシーンを見ただけで緩む涙腺。
バックで流れるのはみんなで選んで投票して決めた音楽や、探したり作ったりした音たち。上からあたる照明も子ども達の発想を生かした明かりになっています。

 
 

今回この企画にはたくさんのことを詰め込みすぎたかな、という危惧もありましたが、蓋を開けてみれば、頼もしい講師陣と、大人の心配を軽々と超えていく子ども達のエネルギーで、本当にクリエイティブで贅沢な時間となりました。
実は当初、定員に対して参加した人数は少ない印象がありましたが、1人1人の創作する時間、それをみんなで見合う時間を考えれば、適切のようにも感じています。

作品のラストシーンでは、舞台奥から出演者全員が一列になり、左右を見ずしてお互いの気配を感じながら歩みを揃え、客席側に進んできます。年齢もバラバラ、背丈も大きい子もいれば、その子の胸の高さの子もいます。でも全員が何か決意を持った目でこちら側に迫ってくるシーンには、完全に涙腺が崩壊しました。


最後に、貴重な体験を実現するためにはアイアンシアターの全面的な協力無しには考えられませんでした。簡易宿泊所としても会場を提供くださり、子ども達の生活面でもつきっきりでご協力頂きました。
そして助成いただいた、子ども夢基金の資金援助なしには子ども達の体験は充実したものにはなりませんでした。この場を借りて感謝申しあげます。

講師のみなさん、参加してくれた子ども達、本当にありがとうございました。
さあ、次はどんな面白い体験の場を作ろうか、私達にもまた常に決意が求められています。(おいかわたかこ)