すべての人にアートを

仙台を拠点に活動するNPO法人アートワークショップすんぷちょの活動ブログです。

ダンスであそぼっ~シルクドエール~

平成23年から始まった文化庁芸術家派遣事業(震災対応)の一環で、仙台市内にある聖愛幼稚園にダンスプログラムを届けてきました。
大きな通りから細い横道に入った先にある、とても小さな幼稚園。
2回は礼拝堂になっていて、3階建ての建物の屋根には十字架が掲げられています。
こじんまりとした佇まいに、慈愛に満ちたぬくもりが感じられるとっても素敵な幼稚園でした。

プログラムを届けたアーティストは西海石みかささん(ダンサー、振付家、演出家)渋谷裕子さん(ダンサー)佐々木大喜さん(ダンサー)の、すんぷちょではおなじみのみなさんです。

今回お届けした「ダンスであそぼっ」は幼稚園との打ち合わせの後に、ゼロから創作した新しいプログラム!オイリーカートの学びが随所に生かされています。

事前資料の作成
まずは「ソーシャルストーリー」のような事前資料。「のような」としたのは、自閉症スペクトラム発達障害児の生活をより生きやすくするためのソーシャルストーリーについては最近専門のワークショップを経てから製作しないと、危険なことも分かってきたからです。国内でも専門書が多く出ていて、詳しい文例が載っている本もあります。今後は学びを深め、鑑賞の手助けになるソーシャルストーリーはどんなものか、探っていくつもりです。(http://www.nara-edu.ac.jp/CSNE/guide/parents/qa16.html/ソーシャルストーリーとは?)

今回の実施では、障害のある子どもは少なく、未就学児の子ども達が対象だったので、事前資料を手作りの絵本にして一週間前に幼稚園にお届けしました。
俳優の写真をとって、切って貼って、色を塗って。。「なんてアナログ。。」と自分てつっこみを入れつつ(オイリーカートのそれはアートブックのようなスタイリッシュかつ綺麗な仕上がりでした)、いやでも子どもにとってはこちらの方が親しみやすいよね。とフォローしつつ。(本来ソーシャルストーリーは色などに注意が向かないようシンプルな線とモノクロで描くのだそうです)
なかなか素敵に出来上がりました。

内容をどうすべきか、悩みましたが、そんな時オイリーカートの芸術監督ティムの言葉が脳内に響きます。

「大事なことはシンプルに。シンプルが美しい」


登場人物の紹介と「みんなとこんなことをするよ!」という内容の紹介で6ページ。
  

これが、とても効果的でした。
当日幼稚園に到着して準備を始めると園児達がこの本を片手に「あっ!ボタンさんだ」「ねぇ、あなたのこと知ってる!ポケットさんでしょ!」と出演者達に声をかけてくれたのです。
先生に聞くと、事前にクラスで回して読み聞かせ、廊下にも展示してくれていたとのこと。
 

絵本ですでに知っている登場人物が現れて、自分の側にある「知ってる」という記憶や知識と、その人たちがこれからどんなことをするんだろう?という期待が俳優とであった瞬間に溢れ出た、そんな瞬間でした。
子ども達の意識や興味が、プログラムが始まる前から(出演者は衣装すらまだ着ていない。。)出演者に向いている状態。事前資料の手ごたえを感じました。

導入の時間にたっぷり時間をかける
プログラムが始まる前、小道具を教室の真ん中に出しておいて、子ども達に自由に遊んでもらいました。これも非常に効果的でした。大きな布を身体に巻きつけてドレスにする子、綿を入れて作った火の輪に2人で入って電車ごっこする子、小道具が入っていたカートに入ってバスごっこをする子、「その道具、そうやっても遊べるのか!」という発見がたくさんありました。

  
(ちなみにこの木の箱のカート、私の父が昔作ってくれたおもちゃ入れです、こうやって活用する時がこようとは。。)
本編が始まるとそのアイディアをもとに子ども達がどんどんワークに参加して、時には物語を前に進めてくれました。作品を創るとき、ついつい本編が始まってからのお楽しみ!ネタバレ注意!みたいに考えがちですが、事前に慣れ親しむことが本当に重要!という気付きは今回の大きな収穫です。(セミナーで知っていても実践の中で直面しないと実感が沸かないものですね)
子どもが積極的に関わるきかっけや種を作ることが出来るのですね。

音楽と衣装も全部手作り
また、今回は「音楽」と「衣装」も全て手作り。
音楽はすんぷちょを応援してくださっている方に作曲をお願いし、ウクレレ、鍵盤ハーモニカ、おもちゃの木琴で演奏しました。今回のメンバーは3人でしたが、プログラムに生演奏を加えるにはもう1人、演奏のみの音楽家が必要!というのが反省です。演奏もしてファシリテートもして、、というのはかなり忙しい。
オイリーカートも基本的なメンバーは4人(3人の俳優と1人の音楽家)というのが頷けました。

実は、この音楽で私は本編中1度泣きました。
それは子ども達の名前を呼ぶ歌のとき。ダンサー達が歌っていた歌に子ども達の名前が出てきた瞬間、名前を歌われた子の顔がパァっと輝きました。そして「わたしも!わたしも!」と一斉に自分の名前を教えてくれたのです。そのやりとりがとても優しくて、素敵で、子ども1人1人が尊重されている光景に、「こういうことがやりたかったんだよなぁ」とじーんときてしまいました。(これだからこの仕事は病みつきになるのです)

また今回の衣装や小道具はダンサー佐々木大喜さんのお母様でもあり、すんぷちょの理事、佐々木博美さんの手作り。ご家族に仕立て屋さんもいらっしゃる博美さんの腕前はプロ級。細かい始末まで美しく作られていました。
 

今回のような出前ワークショップの場合、物語の世界を醸し出すことができるビジュアル的なものは、衣装の存在が大きく占めています。幼稚園に大きなセットや照明などは無いからです。
色味や素材にこだわり、キャラクターを人目で分かるようなデザインにするには、、、、あーでもないこーでもないと博美さんと試行錯誤を続け、製作は深夜まで続きました。

子どもが物語を進めた瞬間

3人の登場人物のうち、チャックさん(佐々木大喜さん)は、口ではお話しない設定になっています。しゃべるときは衣装のベストに縫いつけられたチャックでしゃべります。
「ジジジジジッ、ジジ、ジジジジジ」
チャックさんがしゃべるとき、それまでワーキャーと遊んでいた子ども達が一斉に「シーーン」となり、耳を傾けました。「何て言ってるのかな?」「え?そうなの!」物語の前半では他の2人のダンサーが訳していたのですが、本編の最後のシーンでチャックさんがしゃべった時。
「もう帰らなくちゃいけないって!」
子どもが訳して物語を前に進めてくれたのです。これには先生もびっくりでした。
 
実施後の振り返りでは校長先生から
「アーティストがスターなのではなく、ファシリテーターになっていたのがよかった。(子どもが主体に動いている点が良かった」
また担当の先生からは
「始まる前に自由に遊ぶ時間があるのが良かったです。話の流れで道具が全部無くなっちゃった時、道具がなくても想像すれば遊べるんだ!と子ども達が自分で「はっ」と気が付く瞬間が良かったです」と、感想を頂きました。

今回の実施はオイリーカートから学んだことを色々と試す機会となり、反省もたくさんあります。
でもこうして創作、実施、ブラッシュアップ、創作、実施、ブラッシュアップを重ねていって、良いプログラムを作っていくという方向性がはっきり見えてきました。

現在クラウドファンディングに取りくんでいる重度重複障害や自閉症の子ども達に感覚で伝わる演劇を届けたいのプロジェクトは、重度障害や自閉症スペクトラムの子ども達にフォーカスして創作するプログラムです。細部まで、作り手の気持ちがこもった優しくも美しいプログラムを作っていきたいと思います。ぜひ皆様の応援、寄付をどうぞよろしくお願いします。(おいかわたかこ)